【解説】何が違うの?分かりにくいJA組織の仕組み 全中・全農・共済連・JAバンクとは

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皆さんは「JA」と聞いて何を思い浮かべますか?農協、銀行、保険…実は一口に「JA」と言っても、その組織は非常に複雑で多岐にわたっているのです。

JAとは「農業協同組合(Japan Agricultural Cooperatives)」の略称で、農家の皆さんが「一人では難しいことも、みんなで力を合わせれば解決できる」という相互扶助の精神で作られた協同組合です。

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目次

本記事のテーマ

  • JAグループの3段階構造
  • 単体JA 地域に最も近い存在
  • JA全中 JAグループの「司令塔」
  • JA全農 農業の「総合商社」
  • JA共済連 農村の「保険会社」
  • 農林中央金庫(JAバンク) 農村の「メガバンク」
  • JA厚生連 地域医療の「守り手」
  • JAグループが抱える共通の課題
  • まとめ

1.JAグループの3段階構造

JAグループは基本的に3つの階層で構成されています。

この構造により、地域に密着したサービスから全国規模の事業まで、効率的に運営されているのです。

  • 単体JA(地域の農協)
  • 都道府県段階の連合会
  • 全国段階の連合会

2.単体JA 地域に最も近い存在

https://www.ja-sakai.or.jp/about/ja/

役割と特徴

単体JAは皆さんに最も身近な存在です。各地域に設置され、以下の5つの事業を一体的に行っています。

単体JAの役割
  • 営農・生活指導:農業技術の指導や生活のアドバイス
  • 経済事業:農産物の販売や生産資材の共同購入
  • 信用事業:貯金・融資などの銀行業務
  • 共済事業:生命保険・損害保険に相当する保障
  • 厚生・医療事業:健康管理や医療サービス

必要性

地域に根ざした総合的なサービスにより、農家だけでなく地域住民全体の生活を支えています。

問題点

高齢化による組合員減少や、准組合員(非農家)の増加により、本来の「農業者の組織」としての性格が薄れつつあります。

※准組合員(非農家)とは、農業を行う農家ではなく、農協が提供するサービス(JAバンクローン、葬祭場、ガソリンスタンド、Aコープ等)を利用するために、少額を出資し組合員となる制度です。
JAの総会(株主総会のようなもの)における議決権や選挙権は付与されません。

3.JA全中 JAグループの「司令塔」

https://building.tokyo/ja-bldg/

JA全中の正式名称は「全国農業協同組合中央会」です。JAグループ全体の意見調整や代表機能を担っています。

JA全中の主な業務
  • 各JAの意見を取りまとめ、政府への政策提言
  • JAに対する経営相談や指導
  • 農業情報の発信

必要性

全国のJAをまとめ、農業界全体の声を国に届ける重要な役割を果たしています。

問題点

2015年の農協法改正により、従来の監査・指導権限を失い、「独裁的」との批判もあった組織運営の見直しが求められています。また、200億円規模のシステム開発失敗など、組織運営能力への疑問も指摘されています

4.JA全農 農業の「総合商社」

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000008852.html

JA全農の正式名称は「全国農業協同組合連合会」です。JAグループの経済事業を担う中核組織です。

JA全農の主な業務
  • 全国の農畜産物の販売・流通
  • 肥料・農薬などの生産資材の共同購入
  • 農産物の輸出事業
  • 食品加工・流通事業

必要性

スケールメリットを活かして、個々の農家では困難な大規模流通や海外展開を可能にしています。

問題点

中間マージンが高いとの批判や、農家の所得向上への貢献度について議論があります。

5.JA共済連 農村の「保険会社」

https://www.ja-kyosai.or.jp/about/

JA共済連の正式名称は「全国共済農業協同組合連合会」です。生命保険と損害保険を兼営する保険事業の全国本部です。

各JAが窓口となり、JA共済連が保険の引受けや支払いを行う分業体制を取っています。

JA共済連の主な業務
  • 生命共済(生命保険に相当)
  • 建物更生共済(火災保険等に相当)
  • 自動車共済(自動車保険に相当)
  • 傷害共済など

必要性

営利目的ではない相互扶助により、比較的安い保険料で充実した保障を提供しています。

問題点

民間保険会社との競争激化により、職員のノルマ達成圧力が問題となっています。

6.農林中央金庫(JAバンク) 農村の「メガバンク」

https://diamond.jp/articles/-/343975

JAバンクは以下の3つの組織で構成されています。

1. 農林中央金庫(全国機関)2. 都道府県の信用農業協同組合連合会(信連) →3.地域のJA(窓口機能)

この3段階が「JAバンク基本方針」に基づき一体的に運営される仕組みを「JAバンクシステム」と呼びます。

資金の流れ

地域のJAで集めた預金→信連→農林中央金庫という流れで資金が集約され、農林中央金庫が国内外で運用を行います。

必要性

個々のJAでは不可能な大規模な資金運用や、預金保護システムの構築を可能にしています。

問題点

農林中央金庫の海外投資での巨額損失(2024年度に1兆5000億円の赤字見込み)により、JAバンク全体の経営への影響が懸念されています。

7.JA厚生連 地域医療の「守り手」

https://www.ja-zenkouren.or.jp/business/

JA厚生連の正式名称は「農業協同組合厚生連合会」です。農村部の医療・保健・福祉事業を担当しています。

JA厚生連の主な業務
  • 病院・診療所の運営
  • 健康診断・人間ドック
  • 介護施設の運営
  • 地域保健活動

必要性

医療過疎地域での地域医療を支える重要な役割を果たしています。

問題点

医師不足や経営悪化により、病院の統廃合が進んでいます。

8.JAグループが抱える共通の課題

https://www.chu.aichi-ja.or.jp/group/business/
1. 組織の複雑さ

多層構造により、組織内部でも全体像を理解している職員が少ないのが実情です。

2. 人材流出

ノルマ達成のプレッシャーや組織運営への不満により、職員の離職が増加しています。

3. 准組合員問題

非農家の准組合員が正組合員(農家)を上回る状況で、「農業者の組織」としてのアイデンティティが揺らいでいます。

4. 経営効率

複雑な組織構造により、意思決定の遅れやコスト増加が指摘されています。

5.農家所得低減

生産性の低い農家さんに対して、これほどの組織(人員)が複雑に関与しています。それぞれの組織がマージンを取得するため、農家所得が向上しない大きな原因となっています。

9.まとめ

https://esgjournaljapan.com/domestic-news/21322

JAグループは、単体JAから全国組織まで、それぞれが重要な役割を担っています。複雑に見える組織構造も、「農家の営農と生活を総合的に支援する」という目的のために発展してきたものです。

しかし、時代の変化とともに様々な課題も浮上しています。これらの課題を解決し、真に農家と地域のためになる組織として発展していくことが、JAグループの今後の使命と言えるでしょう。

JAグループの各組織を理解することで、農業や地域社会の現状をより深く知ることができます。私たちの食と農を支える大切な仕組みとして、今後の動向に注目していきたいですね。

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